フワリ
一月に書いた「熱環境」の後日談。
人体の温熱環境要素のひとつ、気流をコントロールするために薄い布を垂らしたのだが、その結果として、ワンルームで一続きだった1階のオープンスペースを小さな空間に仕切ることになった。
するとどうだろう。いままで一部屋だった空間に、様々な小さな場所が生まれたのだ。小さな場所は自然と、それぞれに性格付けがなされて、それぞれに小さな世界が生まれた。
まぁ、これだけなら、妹島さんの「梅林の家」で実現されていること。
空間を仕切った布が軽くて薄いものだったので、微細な空気の動きにも感応して、フワリ、と揺らぐのだ。
人が動くと、フワリ。
ヒーターを動かすと、フワリ。
どこかの窓が開くと、フワリ。
これがカーテンならば、もともと窓についているのだから、担当する窓があって、ほぼ一対一の関係だから明快。でも、この現象は、部屋と部屋を分けている「仕切り」が、布という柔らかい素材なので、壁が揺らぐ。部屋が揺らぐ。動かないと想定されている空間が揺らぐ。
なぜそのようなことを感知できるかというと、気流という普段目に見えない空気の動きが、布という物質によって、視覚化されているからだ。
建築や空間は、コンクリートや鉄、木材といった堅い物質だけで構成されているのではない。
差し込む光や、温度・湿度、空気の動きといったことこそ、人々の感覚が直接感じ取る環境要素なわけで、そういう意味で、建築を設計することは「感覚の設計」と言うことができる。
とは言っても、僕たちは直接、感覚の設計をすることはできないので、木材や鉄やコンクリートや樹脂、そして布などを駆使して、間接的に感覚の設計を行うのである。
それにしても、この布の動き、形態は美しいなぁ。作図したわけでもないのに、数学的な曲面を形成している。
こういう体験をしてしまうと、動くような(でも動いていない)建築、揺らいだような形の(でも揺らぐことがない)建築、というものの底の浅さが見えてしまう。
揺らぐような軽々しく見える建築が何十年、場合によっては100年以上、この世の中に、揺らぐことなく(構造体が揺らいだら建築ではなくなるし)建ち続けていくことを想像すると、なんだかばかばかしい。
[ben]
by ben_matsuno
| 2006-04-07 10:45
| 考えたこと
Natural LIFE, comfortable shelter.
by ben_matsuno
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